ぴーすけ君とそらちゃんとぴのこちゃん 322023-07-14 16:49:44

父の日のことです。

ぴーすけ君がお父さんに父の日に「お父さんありがとう」と伝えたくて、普段なかなかお父さんとお話しする機会がなかったのですが、思い切ってお父さんに話しかけました。

お父さんは、ぴーすけ君に「ありがとう」と言って、色々話をしてくれました。

ぴーすけ君は、お父さんがなぜフルートを吹くようになったのかとか、なぜ尺八を練習しているのか不思議だったのです。そして、一度そのフルートを試しに吹いて見たいと思っていました。

でも、お父さんが大事にしているフルートを勝手に持ち出したりしたら、きっとお父さんに怒られると思っていました。何しろとても大事にしているのを知っていたからです。

お父さんは、ぴーすけ君に子供の頃の事を話してくれました。

お父さんが、今のぴーすけ君よりもっと大きくなった頃、中学生の頃にお父さんのお母さん、つまりぴーすけ君のおばあちゃんのお友達の息子さんがフルートを吹いていたのを見て、ちょっと興味を持ったのだと教えてくれました。

その頃のお父さんは勿論フルートなんか持っていませんでした。そして、買いたくてもおねだりできるような状況でもありませんでした。でも、ずっと興味を持っていたら、ある日そのおばあちゃんの友達の息子さんが使っていた横笛をプレゼントされたのです。

学校では縦笛を音楽の授業で習いますが、横笛は習いません。初めて横笛を手にしたお父さんは、見様見真似で横笛を吹いて見たのだそうです。でも、難しくてなかなか音が出ませんでした。その横笛は今もお父さんは大事に持っていて、時々手に取って眺めています。

でも、吹いたのを見たことはありませんでした。ぴーすけ君がどうして横笛を吹かないのと聞くと、「難しいんだよ」と教えてくれました。

お父さん曰く、フルートより難しいのだそうです。

そんなわけで、せっかく貰った横笛は、机の引き出しの中でずっと眠っていたみたいなのです。

でも、フルートへの関心はずっと持っていて、高校生になった時に、お小遣いを貯めて、安いフルートを買いました。そして、そのフルートを使って、先生には全く習わずに見ようみまねと、NHKのフルート教室の番組を見ながら時々練習していたのだそうです。

楽譜を買って、時々練習をしていました。その時に練習した曲はずっとお父さんの記憶の中に残っていたのですが、大学受験を前にして、いつの間にかフルートの練習はやめてしまったのだそうです。

その当時、お父さんはおばあちゃんに聞こえるようにフルートを練習していたそうです。

そして、大学に進み、卒業して会社勤めをするようになり、すっかり例のフルートは箪笥の奥で眠っている存在になってしまいました。

それから、ん10年と言う長い年月が流れ、その間におばあちゃんは癌を患ってこの世を去ってしまいました。その時はとても悲しかったとお父さんはぴーすけ君に話してくれました。

ある日のこと、お父さんはお家の近所を散歩していると、「尺八教えます」と言う看板を見つけました。

元々笛が好きだったお父さんは、なんとなく尺八を吹いて見たいと思って、その看板が出ていたお家の門を叩いたのだそうです。そして、お父さんの尺八レッスンが始まりました。

先生から、これまで何か楽器を習ったことはありますかと聞かれて、お父さんは「フルートを大昔にちょっとやっていました」と答えたのだそうです。でも、それを言ってからちょっと後悔しました。何しろずいぶん長い間フルートは吹いてもいなかったし、そのフルートがちゃんと音が出るのかどうかもはっきりしなかったからです。

そして、急にフルートを吹いて見たいと思ったのだそうです。

箪笥の奥からフルートを取り出して、吹いてみたら音が出なかったそうです。仕方ないので、お父さんはフルートの修理をしてくれる人を探しました。そして、その人にオーバーホールと言う修理と言うかメンテナンスをお願いしたのだそうです。

お願いしておよそ1週間して、そのフルートが返ってきました。早速吹いてみたら音が出たので、それ以降フルートと尺八の二つの楽器を練習しているんです。

ぴーすけ君の誕生日にもフルートを吹いて聞かせてくれましたが、毎日の様に家で練習しているので、当然ぴーすけ君の耳にも入ってきます。そして、今ではちゃんと先生にもついて練習しているので、だんだん上手くなってきました。

お父さんは言いました。「本当は、死んだおばあちゃんに聞かせたかったんだよね」と。

ぴーすけ君はおばあちゃんに会ったことがありません。でもそれを聞いたぴーすけ君は思わずちょっぴり悲しい気持ちになりました。そしてお父さんに言いました。

「きっとお父さんのフルートと尺八はおばあちゃんにも聞こえているよ」

お父さんはそんなぴーすけ君の言葉を聞いて、「ありがとう」と返事をしてくれました。